Who Am I ?

 

初めて自分の顔に化粧を施したのは、
中学生の時だったと思う。
安い色つきのリップクリームを塗ったとき。
今にして思えばこんなのは化粧のうちには
入らないが、当時の私にしてはちょっとした
挑戦だった。幼い顔に浮いた、不自然な紅色。

ちょうどこの頃だっただろうか。
クラスの男の子に、学級日誌を渡そうと話しかけた。

「ウエダくん、これ。」

私がそういうと、彼はかったるそうに言った。

「あぁ、机の上に置いといて。
 
 あと、言っておくけど、一応オレ、ブスとは
 口きかない主義だから。」

私は、特にウエダくんが好きだったわけではなかった。
私は、特に自分が美人だとは思っていなかった。
私は、特に自分が醜いという自覚を持っていなかった。

深く傷ついたわけではなかったが、何となく自分は醜いのだ、

と理解した。かわいらしい他のクラスメイトの女の子と同じように

振舞ったり、男の子に話しかけてはいけないのだと理解した。

だから、というわけではないが、私は女子校に進学した。
そこには本当にいろんなタイプの女の子がいて、勉強
そっちのけで化粧やスカートの長さに夢中になる子、
顔なんか水で洗ってさえいればいいのだ、と、身なりには
まるで無頓着な子まで。私はちょうど間の子だったと思う。
勉強もよくしたが、華やかな子達に刺激されて、安い
ファンデーションを買い、顔に塗りたくった。
清楚な制服に浮いた、粉っぽくて不自然な顔。

大学に入っても、勉強と部活に精一杯で、自分をキレイに
見せたいということはほとんど考えたことがなかったように
思える。当時の写真を見返してみても、まるでキレイに、
かわいく写っている写真など1枚もない。

社会人になり、都会に出て、かわいい女の子達をたくさん
見てきた。ただひたすらにそれはコンプレックスでは
あったが、街を行くおしゃれな女の子のメイクを参考にしたり

雑誌の メイク関連のページを熟読し、どうしたら少しでもましに
見えるかと必死になった。

 

図らずも父から受け継いでしまったくっきり一重の、かわいげの

ない瞼。朝のメイクの時間の半分以上は目元に費やし、幾重にも

アイラインを引いて濃い色のアイシャドウを乗せる。

唯一自慢の長い睫を更に目立たせようと、何度も違う角度から

マスカラをつける。そして一日に何度も鏡を覗き込んでは、滲んだ

アイラインと目の下のマスカラをふき取り、また「これが私」と言う顔

で、颯爽とトイレから出て行く。

ウチに帰って顔を洗い、タオルで顔を拭くと、そこにいるのはまるで

別人。私と、数少ない私以外の人たちが知っている素顔の私。

もう誤魔化しのきかない、やっぱりかわいげのない一重まぶたに、

血色の悪い顔色。

 

化粧をしていれば美人です、というわけではないのだ。

ただ、あなたが見ている私は、本当は私ではないかもしれません。