8.ひとりで過ごす時間
シンガポールに来てからは、必然的に「ひとり」を感じる時間が増えた。日本にいる頃、特に最後の1年は一人暮らしをしていたわけだが、まぁ、仲のいい友達やなんかとよく遊んだりしていたし、何しろ彼氏が割りと近くに住んでいたので一緒にいることが多かった。すぐ会える距離に友達も家族もいたせいか、自分がひとりだということを意識することもなく過ごしていたような気がする。
ここシンガポールに来てからもAMKの皆さんと知り合わせていただき、練習以外でも、ごくたまにではあるがご一緒させていただくこともあったり、何より会社で唯一日本人の同僚であるMちゃんという大変心強い女性がいるので、まぁ、居場所がないような気がしてしみじみと凹むこともあるが、死んでしまいたいとまで孤独感を味わうことはなかった。特にMちゃんについては彼女なくして私のシンガポール生活は語れないというほど散々世話になっており、いくら感謝してもし足りない。彼女のおかげで比較的精神面でも健康な生活を営んでいることは事実である。最近始めたヨガも彼女のおかげだし、泥沼の人間模様に足をとられている私と一緒にフラトンホテルのレストランで泣いてくれたのも、泥沼からいつまでも抜け出せないでいる私を蹴飛ばしてくれるのも彼女だ。大変勝手だが、このエッセイの愛読者でもある彼女に、この場を借りてお礼を言いたい。ほんとに、ありがとね。
この国にやってきて、ひとりでいるのが好きだという人に何人か会ったが、そのうちの多くの人は、はっきりいって口先だけで、実際は誰かとつるんでいる方がよほど好きなようだ。正直、ひとりでいることに変に苦痛を感じない人、またひとりでいる時間を有効に使える人というのはかっこいい。何かしら自分でできることをきちんと認識できているし、精神的に自立していないと、ひとりでいることの意味を見出すのは簡単ではない気がするのだ。私も年がら年中誰かとつるんでいるのは好きじゃないし、時にはひとりでいたいと思うこともあるが、ある程度ひとりでいる時間を満喫すると、その後はどうにも誰かと一緒にいたいような気分になることが多いものだ。上記のMちゃんなんかは、本人もひとりでいるのが好きだといっているし、実際に話を聞いていると、彼女ひとりで有効な時間を過ごしているように感じられる。家でダラダラすることも、ひとりで買い物や、何か楽しいことを探しに出かけることも、それが苦痛でない限りは有効なことだと思う。まぁ、本人がそこまで自覚した上でしていることではないと思うが、私のような人間から見ると、見習わなくてはならないな、と感じる。
というわけで、私はひとりでいる時にしていることで、何を楽しいと感じているかを研究してみた。最近は以前に比べると比較的いろいろなことに積極的になれてきたような気がする。
小さなことから大きなことまであるが、まず一番小さなことは、タバコを吸いながら外を見ることだ。リビングの窓をブラインド越しに外を眺める。雨が降っていると、なお良い。一番いい時間は土曜日の朝だ。たまたま早く起きてしまって、二度寝の体勢に入る前に一服しながら、歩く人の点を眺めたり、向かいのビルの部屋をひとつひとつ眺めるのが好きだ。T郎良さん、私に覗かれているかもしれないので、土曜の朝は特に注意してください。これの何が楽しいのかと言われそうだが、歩いている人や、向かいのビルの人が私に観察されているとも知らずに彼らなりの時間を過ごしていると思うとなんだか嬉しくなるのだ。別に私に観察されたからってどうっていうことはないのだが、まぁ、自己満足である。
最近また始めたギターも楽しい。私は高校のときからロック好きだ。エアロスミスのためならドリアンを食べてもいい。アラニスのためなら長く伸ばした髪を切ってもいい。女子高時代はバンドを組んでエレキギターを鳴らしていた。家で練習していると、父に「うるさいから(寺の)本堂でやれっ。」と言われて、観音様の前でウィンウィンいわせていたものだ。死んだら間違いなく地獄に落ちるだろう。そのうち受験で忙しくなりギターに現を抜かしている場合ではなくなったので、弟に譲ったが、先日帰国したときにその弟がエレキを卒業してアコースティックに転向しているのを見て、私も血が騒いでしまった。シンガポールに戻って割りとすぐにプラザシンガプーラのヤマハに行って、青いきれいなアコースティックギターを手に入れた。アラニスの楽譜を買って、微妙に練習中だ。ひとりなら変な音を出しても誰も文句を言わない。
睡眠大好きの私が最近力を入れているのは、より良い睡眠への備えだ。寝ればいいという問題ではない。不貞寝は起きたときに精神衛生上あまり良くない。やはり順当な眠り(通常の夜の眠り、ソフトボール後の眠りなど)をいかに充実させるかというのは非常に重要な課題である。最近は、ちゃんとバスタブにお湯を張っての入浴と、数々のお風呂グッズが、充実した睡眠には不可欠であることを認識した。実際、どこかの大学の偉い人の研究によると、シャワーを浴びただだけと、きちんと入浴した場合はノンレム睡眠に至るまでの時間が短く、安定した睡眠を取れるらしい。この入浴とそれに纏わる全ての睡眠準備は、完全に自分のペースで行われなくてはならないので、中途半端に他人がいては邪魔なだけなのだ。さて、昨日の例を挙げると、ヨガのレッスンの後、心地よい疲労感を覚えながら今日はどの香りのお風呂グッズで統一するかを念入りに考えながら帰宅し、下手に月曜からラベンダーなんか使うと翌日起きるのが辛くなり、翌日の業務に支障をきたしかねないので、リフレッシュ気分を満喫するためベルガモットで統一することにした。入浴剤、ボディソープ、ボディローション、アロマオイルのすべてをベルガモットにし、香りを楽しむ。入浴終了後は念入りに肌の手入れをし、最後にどの香りで統一しても合う、フェイス用アロマオイルを顔に塗って23度に設定されたエアコンの下、朝まで死んだように眠る・・・予定だったが、真夜中に電話で起こされ安眠を妨害された。
窓の外をのぞいてニヤニヤしているのは変態ちっくだし、タバコを吸わない人は楽しみが半減するかもしれない。ギターは皆が弾くとは限らないが、是非入浴は実践していただきたい。バスタブが無い方は、それを除いてもいいので、好きな香りのセットを小さなものでもいいのでいくつか買って試してみていただきたい。極上の睡眠があなたを待っていることでしょう。バスタブがないが、どうしても風呂に浸かりたいという人は、うちのバスタブを貸すので、事前に予約をした上でお見えいただければ大歓迎である。誰がこんなに使うんだと言うほどの数々のお風呂グッズからセレクトしていただきたい。その代わり、家の主がいるので一人で、というわけにはいかないが、邪魔はしないのでその点はご了承いただきたい。
とまぁ、長くなってしまったが、最近ひとりでいて楽しいことといったら、こんなところだろうか。今日のお風呂は、新しく買ったペパーミントにしよう。
あ、ひとりで楽しいこと、一番楽しいことを忘れていました。
「女王様の独り言。」
(今日のBGM:”Carey”- Joni Mitchell
“All I Wanna Do”- Sheryl Crow)
Ciao.
全てを紛らわしたい夜に。
Nozomi